2026年11月1日
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情報通信研究機構(NICT)

太陽高エネルギー粒子の値合わせは専門家任せでない

AI が描いたイメージ

太陽高エネルギー粒子の予測は、専門家が値を手作業で合わせる段階から、複数の探査機の観測に合うよう自動調整する段階へ進み始めた。富士通、名古屋大学、JAMSTEC、NICTらは5機の観測を使い、粒子の加速と輸送に関わる19個のパラメータを自動設定した。手順が別のイベントでも精度と速度を保てば、月面基地や衛星の管制室で粒子の到来前に退避や機器保護を判断できる。

太陽から飛び出した高エネルギー粒子は、衛星を誤動作させ、宇宙飛行士を被ばくさせる。だが、いつ、どこに、どれだけ届くかを計算するのは簡単ではない。粒子は太陽からまっすぐ進むのではなく、宇宙空間の磁場に導かれながら散らばるからである。観測できない散らばり方を表す値は、これまで専門家が試行錯誤で決めてきた。離れた場所で同時に起きることを、人手で合わせるのは現実的でなく、計算の根拠や再現性も弱かった。

図1 従来と本技術のパラメータの決め方の違い。太陽を北極側から見下ろした模式図で、太陽から渦巻き状に伸びる線は磁力線、記号は5機の探査機の位置(2021年10月10日)を表す(PSP:Parker Solar Probe、SolO:Solar Orbiter)。 出典: 富士通、名古屋大学、JAMSTEC、NICTら、太陽高エネルギー粒子シミュレーションの精度を高めるパラメータを、数理最適化で自動決定する技術を開発(情報通信研究機構(NICT))

粒子の道筋を決める値

太陽フレアやコロナ質量放出は、高エネルギーの陽子や電子を惑星間空間へ放出することがある。粒子の到来量と時刻は、発生源だけでなく、宇宙空間の磁場と輸送過程にも左右される。

物理シミュレーションは、こうした見えない過程を「パラメータ」と呼ぶ値で表す。今回の対象は19個だ。7本の磁力線に沿った粒子の平均自由行程と、12方向からどれだけ粒子が注入されるかを示す値である。平均自由行程は、粒子が次に散乱されるまでに進む距離と考えればよい。

観測に合うまで自動で調整する

富士通、名古屋大学、JAMSTEC、NICTらの研究グループは、この19個を数理最適化で自動設定する技術を開発した。数理最適化とは、計算結果と観測の差が小さくなる値を、試行を重ねて探す方法である。

中核システムのSEITENは、太陽周辺の磁場を計算するMHDシミュレーションと、粒子の加速・輸送を計算するSEPIFを連携させる。5機の探査機の観測と計算を比べ、値を更新する作業を自動で繰り返す。広く1,000通りを探し、その後480通りを集中して調べ、計1,480回の試行で絞り込んだ。

2021年10月9日の粒子イベントでは、太陽から0.33〜1.0天文単位離れ、太陽から見て約50度の範囲にいた5機すべてで、粒子到来から立ち上がり、ピークに達するまでのおおまかな時間変化を再現した。平均自由行程を全方向で同じにすると誤差が悪化し、5機を同時には再現できなかった。方向による散らばり方の違いを含めることが、複数地点を説明する鍵だった。

図2 本技術の仕組み。2つの物理シミュレーションを連携させ、計算と5機の観測との差が小さくなるように、数理最適化でパラメータの値を更新することを自動でくり返す。 出典: 富士通、名古屋大学、JAMSTEC、NICTら、太陽高エネルギー粒子シミュレーションの精度を高めるパラメータを、数理最適化で自動決定する技術を開発(情報通信研究機構(NICT))

月面の管制室で判断する

この手順が異なる太陽粒子イベントでも使え、十分に速く計算できれば、月面基地の管制室では、粒子の到来量と時刻を見積もって船外作業を中止し、作業員を遮へいされた区画で待機させられる可能性がある。衛星運用センターでも、強い粒子イベントの前に一部の機器を安全モードへ切り替え、観測データの欠損や衛星の再起動を減らせる可能性がある。

ただし、今回再現したのは2021年の1イベントである。過去のイベントに合ったことは、未知の将来イベントを予測できる証明ではない。異なるイベントでも精度と計算速度が確かめられ、警報の手順に組み込まれて初めて、被ばくや故障を事前に避ける道具になる。

出典

NICT「富士通、名古屋大学、JAMSTEC、NICTら、太陽高エネルギー粒子シミュレーションの精度を高めるパラメータを、数理最適化で自動決定する技術を開発」