新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)
外科AIが手術の根拠を言葉にする
外科AIの壁は、臓器を見つける精度ではなく、熟練医が判断した理由を別の現場へ移せるかにある。ディリーバは大学病院の手術室で外科特化型AIを実証し、解剖学的正確性84.7%を専門医から得た。安全性の実証と規制上の承認がそろえば、地方の手術室で若手医師が操作の理由と次の確認工程を日本語で確かめられる可能性がある。
内視鏡手術のAIは、臓器や血管を画像から見つけられても、いま何の操作をしているのか、なぜ次の判断が必要なのかまでは扱えなかった。熟練した外科医の判断は、その人の経験に埋め込まれている。若手医師や地方の病院では、教育の機会と経験の差が、患者が受ける医療の差につながりうる。
手術の文脈を読むAI
視覚・言語統合モデル(visual-language model)は、画像や映像を見て、その内容について言葉で質問したり答えたりするAIである。手術映像では、出血や煙、器具による遮蔽、患者ごとの解剖学的な違いがあり、画像を見るだけでも難しい。しかも、画像上はもっともらしい説明と、患者にとって安全な助言は別の問題である。臨床で使うには、性能だけでなく、異なる施設や術式での検証、誤作動時の安全設計、規制上の審査も必要になる。
操作の理由と次の工程を言葉にする
ディリーバは、手術映像と外科知識を結びつける日本語の外科特化型視覚・言語統合モデルを構築した。映像に映る対象だけでなく、いま行われている操作、その根拠、次の工程を言語で扱う。外科医は専門データを、Object(対象)、Action(操作)、Reason(理由)、Plan(計画)の4カテゴリに分けて作成し、AIを調整した。
大学病院の手術室でリアルタイム実証を行い、同社の評価では、外科専門医による解剖学的正確性が84.7%、臨床的有用性が82.9%だった。同社は、手術状況をリアルタイムに理解して対話する外科特化型生成AIの開発・臨床実証として国内初だとしている。NEDOと経済産業省のGENIACにおける成果は、CEATEC AWARD 2026のイノベーション賞を受賞した。

手術室で知識を共有する条件
この精度が手術の種類や病院をまたいで保たれ、安全性と薬事上の要件を満たせば、地方の基幹病院の手術室で、若手医師が内視鏡画面を見ながら、見えている構造、注意すべき理由、次に確認する工程を日本語で確かめられる。まずは若手外科医、医学生、地方中核病院向けの手術教育への提供を目指す。将来は、薬事手続きの後に術中の情報提示や確認を支援し、さらに部分自動化へ広げる考えである。
ただし、専門医評価が80%台であることは、誤りが許されにくい手術中の判断をAIに任せられる根拠にはならない。複数の術式で安全性を実証し、規制上の承認を得ることが前提となる。外科医が長年そばで働いて伝えてきた知識を、教育データと対話システムへ移せるか。その壁を越えたとき、AIは画像の中の臓器を見つける道具から、判断の理由を共有する道具になる。
出典
国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「ディリーバが取り組むNEDOプロジェクトの成果が『CEATEC AWARD 2026』でイノベーション賞を受賞しました」