新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)
合成経路AIで化学者は実験へ戻る
合成経路AIが短くするのは化学者の実験ではなく、実験にたどり着くまでの候補探しである。TSテクノロジーと奈良先端科学技術大学院大学は、医薬品の合成検討で作業工数を12週・人まで減らした。予測した経路が実験から量産まで成り立てば、開発実験室では絞り込まれた反応をすぐ確かめられる。
機能性化学品を作るには、まず分子を組み立てる手順、つまり合成経路を決めなければならない。いまは研究者が文献、経験、計算ツール、実験を行き来しながら、膨大な候補を一つずつ比べている。候補を探すだけで時間と人手が消え、医薬品や電子材料を製品にするまでの期間も、工場で安定して作れる条件を決める負担も大きい。
経路が見つかっても製品になるとは限らない
化学反応の組み合わせが理論上は可能でも、実際の工場には別の問題がある。目的の物質が少ししかできないかもしれない。別の物質が混ざるかもしれない。原料を買えるか、分離して精製できるか、設備を安全に使えるかも確かめる必要がある。
量子化学計算は、原子の動きから反応を理解し、起こりやすさを予測する手段である。ただし、複雑な実験条件や、量産したときの挙動を完全に置き換えるものではない。経路探しが速くなっても、実験と安全性、量産条件の確認は残る。
膨大な候補をAIで先にふるいにかける
NEDOのプロジェクトで、TSテクノロジーと奈良先端科学技術大学院大学は、知識をデータベースにするAI、合成ルートを探すAI、反応を予測・検証するAI、製造工程の大まかな設計を考えるAIを、量子化学計算と組み合わせた。プログラムは、膨大な合成経路案を目的に応じて選別し、評価する。
人が文献を読み、候補を手作業で比べてから実験するのではない。まずプログラムに候補を絞らせ、その中から有望な反応を人が確かめる流れである。実際に、このプログラムが提案した経路で医薬品を製造し、開発期間の短縮に役立つことを実証したとしている。医薬品の合成検討では、作業工数が64週・人から12週・人に減った。

化学者は実験と量産の確認へ戻る
候補経路の探索が短くなれば、化学者はフラスコや小型連続装置を使い、反応が本当に起きるか、分離精製できるかを早く確かめられる。工場で同じ結果を再現できるか、安全に作れるかという、画面だけでは決められない仕事にも時間を回せる。対象は医薬品だけでなく、農薬、香料、電子材料などの機能性化学品である。
化学メーカーの実験室では、何週間も文献を渡り歩く代わりに、絞られた経路を受け取り、失敗しそうな条件から試す場面が考えられる。TSテクノロジーは2026年9月30日から、このプログラムを使うサービスを提供する。ただし、予測した経路が実験、精製、量産のすべてで成り立ち、多くの開発現場で使えることが条件である。医薬品では、臨床試験や規制審査、品質保証にかかる時間も別に残る。

出典
国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「機能性化学品の開発期間を約5分の1に短縮可能なプログラムを開発しました」